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2021/10/08

インタビュー

インタビュー

『存(ある)』のつくりて 西村圭功

Main Photography by Yuya Hoshino

オブジェのような存在感と緊張感のあるお位牌『存』。
制作を手掛ける西村圭功漆工房代表の西村圭功さんに『存』に込めた想いを伺いました。

西村圭功漆工房代表

西村圭功

1966年 上塗師 二代西村圭功の長男として京都に生まれる
2003年 (財)伝統的工芸品産業振興協会「伝統工芸士」認定
2008年 三代西村圭功襲名

以後、「京漆器展」京都知事賞、京都市長賞受賞
Singapore artstage2017  London collect2020 他国内外アートフェア
個展「西村圭功展」イムラアートギャラリー(2016年京都)
個展「西村圭功展」カホギャラリー(2019年京都)
個展「西村圭功展-対話するかたち」高島屋京都美術画廊(2019年京都)

■Question-1(以下Q)
はじめに、『存(ある)』が生まれるまでの背景とストーリーを教えていただけますか?

●Answer-1(以下A)
【西村圭功さん(以下、西村)】
切っ掛けは東日本大震災でした。
震災で亡くなった方への家族の思い。未だ亡くなった事実を受け止められず、でもやはり何らかの供養は必要と感じる毎日。
従来の位牌でなく、オブジェの様な手を合わせる対象を作れないか?
というご依頼からこの『存』は生まれました。

■Q-2
今までにないものの依頼でしたが、どのようなことを考えられましたか?

●A-2
【西村】私も父母を送り、友人も亡くしています。その上無宗教ですし、家には仏壇など手を合わせる対象はありません。実際亡くなったら何処へ行くのか?死後の世界があるのか?とか考えたりもしますが、やっぱり近くで見守っていて欲しいと思います。そんな時の対象になってくれればと思います。

■Q-3
つづいて、『存』に対するこだわりを教えていただけますか?

●A-3
【西村】姿かたちが人をイメージする形をしているところです。
人間の身体の空虚さ、またその体で包み込んでいる懊悩や宿命を形にしようとしたジャコメッティの彫刻の様に。

■Q-4
製品の形に起こすにあたって、特にこだわった部分、難しかった部分はございますか?

●A-4
【西村】
手に触れれば優しく温かく感じるのは木と漆、自然素材だけで出来ているから。
漆が優しいのは人間の水分量と漆の水分量が同じだからと言います。
『存』は置いて手を合わせるだけでなく、触り撫でて可愛がるそんな存在であって欲しいです。

■Q-5
では、『存』について西村さんが一番気に入っているところはどこでしょうか?

●A-5
【西村】
従来の位牌ではなく、現代の住空間に適応できるデザイン。宗教に関係なく、仏壇が無くとも単体で室内に置けるところです。

■Q-6
『存』を家のどんな場所に置いてほしいですか?

●A-6
【西村】
家族団らんの場所。人のいつも居る場所に置いてほしいですね。

■Q-7
『存』で美しいと感じているところはどこでしょうか?

●A-7
【西村】
京塗り技法です。本堅地蝋色塗り仕上げにより最高級品と言われるにふさわしい仕上がりになっています。

■Q-8
一般的な塗りの仕上げと比べて、どのような違いがあるでしょうか?

●A-8
【西村】
漆は黒というイメージがあると思います。黒は鉄に反応して化学変化した色で、漆の代表的な色です。
「存」の色は鉄で変化させる前の漆、飴色の漆に顔料を練りこみ発色させたのが、藍であり茜であります。
特に茜の方は朱の顔料を練りこんだ漆を下塗りし、上塗りに飴色の漆をそのまま塗り、茜色を表現しています。
そして蝋色磨きという技法で桐炭で研ぎ、上摺り漆を摺り込んでは磨きの工程を数回繰り返して鏡面仕上げにしました。
側面は漆でテクスチャーをつけ、金箔ありと無し2パターンあります。

■Q-9
西村さんのお仕事の流儀について教えてください。

●A-9
【西村】
最高のものを作るのに時間を惜しまないことです。

■Q-10
この流儀について、普段から意識していることはありますか。

●A-10
【西村】
私は茶道道具を専門としています。(他にも食器、アート作品いろいろしますが)
茶会には利休時代のお棗など約400年前のお道具を普通に使います。
わたしの作るお道具(漆器)も400年先の人が使う事を想定して作っています。

■Q-11
最後に、西村さんにとって「偲び」とは何でしょうか?

●A-11
【西村】
私の漆芸技法は先祖、先人達が考え抜いて作り、積み上げたもの。
その先人達の思いを偲び尊び、その上に自分の技を積み上げ次の世代に渡すのが使命。
先祖に敬意と感謝。漆芸の世界だけではなく今を生きる私達にはすごく大事な事だと感じています。

■Q-12
西村さんが新たに次の世代へ受け継ぎたい想いについて教えて下さい。

●A-12
【西村】
漆工芸をはじめ、現代の伝統工芸といわれるものは全て衰退の一途をたどっています。
時代に取り残されたものは消え去るのみと私は考えています。
「いいものだから」だけでは通用しません。
次の世代へ受け継ぎたいものは私が言うことではなく、受け取る側が選ぶ事であり、受け取る側が要らないと思うなら、消えて無くなっていいと思います。
そうならないために、私は「伝統と革新」両輪でこれからもいろんなものに挑戦し続けます。その上でバトンを渡せたならと。。。