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2026/09/08

インタビュー

インタビュー

「NEW SCENE vol.3 祈りをつなぐ 千葉紅雪 個展」

「祈りをつなぐ」という言葉に、私たちはずっと大切にしてきた想いを重ねました。

離れていても、かたちを変えても、人と人の想いは、繋がり続ける。その想いに深く共鳴してくださったのが、前衛書家・千葉紅雪さんです。

祈りの道具屋 まなか 横浜元町ショールームでは、2026年9月19日から10月12日まで、企画展「NEW SCENE vol.3 祈りをつなぐ 千葉紅雪 個展」を開催いたします。

「想うと、暮らす。」という視点から、この時代の祈りの形を問う企画展シリーズ。第3回目にお迎えする千葉さんが、作品に込められた祈りの意味とは?展示に先駆けて、心の内をお伺いしました。

宮城県石巻の書家。前衛書家・大内魯邦氏、千葉蒼玄氏に師事。20数年前に若きご子息を亡くされて以来、「祈り」をテーマに制作をはじめる。毎日書道展、書道芸術院展、河北書道展などに出展。2018年、毎日書道展会員賞受賞。2011年の東日本大震災を経験し、その想いをさらに深めている。

2018年 第71回毎日書道展会員賞
1997年 第44回河北書道展 第3部特別賞
1996年 書道芸術院展準大賞
第43回河北書道展 第3部特別賞

文字を書き連ねるのではなく
想いを形にする表現がある

―今回の企画展にあたっては、まなかが作品に惚れ込み、ご出展をお願いしました。最初にご連絡を差し上げた際には、どのようにお感じになりましたか?

7月に熱烈な想いを綴ったメールをいただきました。「人が人を想う暮らしを支えている、そんな会社です」と書いてあり、心通じるものがあると感じました。なかでも、私の作品について「力強さの中に穏やかな空気感がある」というふうに書いていただいたことが印象に残っています。

―書の道に入られたきっかけを教えてください。

大学生の頃に、現在の夫である千葉蒼玄と出会い、書道を始めました。私と蒼玄が師事したのが大内魯邦先生という前衛書家の方だったんです。

最初はみんながエネルギーをみなぎらせて黙々と黒い塊を書いていたので、「何をしているんだろう」と思ったんです。今でこそ、墨と紙と自分とを一体化させるための作業だったと分かりますが、その時は圧倒されました。文字ではなく形で自分の想いを表現する分野があると知り、のめり込んでしまったんです。

体と心と筆が一体になるような
熱いものに惹かれている

―当初はどんな作品を?

最初はとにかく墨を紙全体に埋めて、黒い塊のようなものを力強く書いていましたが、だんだんと、黒を使いながらも白を生かした作品はできないかと考えるようになりました。墨の無限の可能性に気づいてからは、滲みを美しくする研究を始めました。それが今のスタイルにつながっています。

墨がのった筆はとても重いのですが、それを振り回して書くので、息が上がるほど体力を使うんです。それが心地よく、体と心と筆とが一体化するようで、その熱いものから離れられないんです。

―毎回、「自分にしかできない作品ができた」という感覚はありますか?

それはないですね。自分では新しい作品を作ったつもりでも、以前の作品を見るとやっぱり同じ。きっと自分のどこかに安全地帯というのがあるんですよね。そこから飛び出していくのはすごく難しいんです。一生こうしているのかもしれませんね。

書くことは、祈りそのもの
大切な人が見守ってくれるように

―作品タイトルに「祈り」という言葉が多く出てきます。どのような思いを込めて名づけていらっしゃいますか?

祈りをテーマに制作を始めてから、26年が経ちます。私は、26年前に高校3年生の息子を交通事故で突然亡くしました。当時は受け入れることすらできず、どうしようもない喪失感でした。

息子は私の書道をすごく応援してくれていたんです。それで、この想いを息子に伝えていくにはどうしたらいいだろう。ただ祈るだけではなく、何か息子に届くような作品ができないかと考えたのが「祈り」の作品の始まりでした。それから、15年前の東日本大震災のこともあります。

―宮城にお住まいでいらっしゃいますね。

ええ。私はその時、石巻高校で養護教諭をしていたのですが、生徒の中にも大切な人を亡くされた方がたくさんいました。親御さんを亡くした書道部の生徒が、黙々と書き続けている姿を見て、悲しみを受け入れる作業としての書というものに気付きました。書き続けていくことが、祈りの所作そのものなんだって思ったんです。

それ以来、「大切な方々が私たちをいつも見守ってくれている」という想いを形にしたいと思い、鳥瞰のような作品を作り始めました。

―どんなふうに制作していくのですか?

いろんな墨を磨って溜めておいて作品を作ります。夜更けまで墨を磨り、作品のそばで寝ていて、少し乾いたら起きて墨を足し、今度は水を足し、乾き始めたところにまた墨を足して。大変ですが、そういった時間が、祈りそのものだとも思うんです。制作に一生懸命になるなかで、息子や他の大切な人とどこか心が通じているのかもしれません。

紙や墨とのやり取りを通じて
自分自身に問いかけている

―1週間という時間をかけて制作されるそうですね。

ゆっくり浸透していくのを目で追いながら、いろんなものを足していきます。ですから、すっかり乾かないと完成形が見えないんです。どこまでも途中経過なんですね。乾いて広げてみて、初めて作品と出会うという感じです。

―ここで完成、というのはどうやって決めるのでしょうか?

もう、あきらめるんですね。やりすぎると今度は全部真っ黒になってしまうので、欲張るといけません。「もっともっと」って思うと、きれいな白が残らなかったり、どこまでも滲んでいってしまったり。終わりは、自分の中で決めるしかないんですね。

体はなくなっても
そばにいると感じる時が来る

―千葉さんにとって、祈りとは何でしょうか?

日常そのもの、日々の暮らしそのものだと思います。息をしたり、ご飯を食べたりするのと同じように、いつも身近にあるものです。家では毎日お線香をあげて、仏壇に手を合わせていますよ。好きだった食べ物をお供えして、語りかけてね。

―どんなお話をされるのですか?

「今日は何々作ったからね、誰々ちゃん食べてね」って。帰ってきたら必ず仏壇に「今日も元気で行ってこられたよ」って声をかけています。

息子を亡くした時に、ある方に「体はなくなったけど、そばにいるって感じる時がやってくるから。それまでだからね、辛抱して過ごしてね」って言われたんです。その時は分からなかったんですが、何年かして、本当に息子や父母がそばにいるっていうのを感じ取ることができてきて。自分が生きているというよりは、その人たちに生かされているんだって感じています。

―作品の相談をされることも?

困ったことがあると、いつも一生懸命みんなにお祈りをして「みんな助けてね」ってお願いしています。作品を作る時にも「どうしたらいいかな」って息子の中のエネルギーをもらったりして。本当にご先祖様に生かされているということを感じながら日々暮らしています。

あちらにいる大切な人が
私たちにくれるメッセージ

―制作を続ける中で、祈りの形は変わってきましたか?

制作を始めた時は、祈りというのが自分から遠い存在だったのですが、20年ほど同じような作業を続けるうちに、少しずつ自分の思っている祈りの形に近づいてきている感じがします。

―ご自身の思う祈りの形というのは?

あちらにいる大切な人たちが私たちにメッセージを送ってくれているような、そんな造形ができないかと思っているんです。墨の白い部分が浮き上がって、あちらからの光が返ってくるような作品です。

この間、仙台で個展を行った際に、来てくれた人が「裏側から光って見える」と言ってくれました。それで、ちょっと身贔屓かもしれませんが、「思っていることが少しずつ形になりつつあるのかな」なんて、ほっとした瞬間がありました。

―今回の企画展で、作品を前にした方々に何を伝えたいですか?

ご自身の大切に思っている方々が、天から私たちを見守っているイメージを感じてほしいなっていうふうに思っています。

長い時間をかけて、少しずつ形作られていく千葉紅雪さんの書。紙や墨と向き合い、大切な人との対話を重ねながら生まれた作品を前にすると、作品と鑑賞者との境界が、曖昧になっていくような気がします。見守られる私たちと、見守ってくれる大切な人。見守られているのは、こちらのほうなのだと気づく瞬間があります。
千葉さんにとっての祈りが、日々の暮らしそのものであるように、作品もまた、特別な日のものではなく、いつもそばで私たちを見守り、力をくれる存在であるように感じます。祈り続ける手から生まれた素晴らしい作品を、ぜひ会場でご覧ください。

写真提供:千葉 紅雪

「NEW SCENE vol.3 祈りをつなぐ 千葉紅雪 個展」
2026年9月19日(土)~10月12日(月)
10:30~18:00
定休日 月・火・金
祈りの道具屋 まなか 横浜元町ショールームにて開催

ショールームの詳細はこちら >

祈りの道具屋まなか 想うと、暮らす。