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2021/12/21

エッセイ

おいしいお供え

#3 銀座 菊廼舎の「冨貴寄 赤丸缶」

一緒に食べた思い出の味、旅先で見つけた小粋なお菓子。
日本全国それぞれの土地で愛されてきた、思わず顔がほころぶおいしいお供えとともに、お仏壇に手を合わせませんか。

赤い缶の思い出

[ 東京都 銀座 菊廼舎の「冨貴寄 赤丸缶」]

東京生まれの祖父はチャーミングな人でした。若い頃は仕事で世界を飛び回り、現地で知り合った人たちのことをよく話していたのを覚えています。

書斎には各地のおみやげや細々とした世界の民芸品が並んでいました。ミニチュアの食器に手作りの素朴な玩具、小さな木彫りの動物たち……幼かった私にとって、その部屋は遠い世界のことを教えてくれる博物館のようでした。

私は、祖父の部屋で本を読んだり、絵を描いたり、小学生にしては随分と贅沢に過ごしました。本棚には必ずお菓子が置いてあり、宿題を終えたら自由に食べてもいい、というのが二人で決めたルールでした。

晩年の祖父は、仏教美術や日本文化に傾倒しました。歌舞伎や落語にも夢中になり、第二の人生を謳歌していたように思います。銀座にある歌舞伎座には私も何度かお供しました。

帰りには銀座 菊廻舎に立ち寄って「冨貴寄」を買って帰りました。小さなお菓子がぎゅうぎゅうに詰まった丸い缶は、私と祖父が一番好きなおみやげでした。

指先ほどの小さなクッキーに、砂糖菓子や豆菓子、金平糖が入った個性的な江戸の和菓子。祖父が好きだった素朴で愛らしい物たちをそのまま詰め込んだような、色とりどりのかわいらしいお菓子に心が弾みました。

祖父も少年だった頃、この赤い缶を手にしてワクワクしたのでしょうか。今もお菓子を口にするたび、あの頃の静かな興奮を思い出し、胸がじんわり温かくなります。

祖父が教えてくれた豊かな世界のことを、私も次の世代に引き継げるように。宝物を愛でるように、一つひとつ小さなお菓子を口に運び、懐かしい光景を思い起こしています。

Store information

銀座 菊廻舎

https://www.ginza-kikunoya.co.jp

銀座本店:東京都中央区銀座5-9-17
TEL:03-3571-4095
営業時間:9:30~18:00(土日祝は〜17:30)

和風クッキーや金平糖、和三盆などがぎっしり詰まった華やかな和菓子
※赤丸缶は現在(2021.12.21時点)お休みしています。販売再開は、2022.1.11からになります。