「NEW SCENE vol.1 祈りをつなぐ本尊 中村駿〈海潮音〉」彫刻家 中村駿

祈りの道具屋 まなか 横浜元町ショールームでは、2022年4月27日から5月29日まで、仏像の企画展「 NEW SCENE vol.1 祈りをつなぐ本尊 中村駿〈海潮音〉」 を開催いたします。

かつて営まれていた本尊に手を合わせ、故人を安らかに想い、祈る生活。
そんな習慣が暮らしを豊かにし、心を癒してきたのかもしれません。
この時代の“祈り”とはなにか?今の暮らしに寄り添う“祈り”の景色を求め、「NEW SCENE 祈りをつなぐ」と題し、“今を生きるわたしたちの生活に寄り添う祈り”というテーマにて、今を生きる作家との企画展を開催していくこととなりました。
“毎日の祈りが永遠に続いていきますように”という想いをもって、作家たちの作品、視点とともに、“祈り”と対話し、ここから広がる“祈り”のある景色をお届けしたいと思っております。

第一回目に開催するのは彫刻家 中村駿による〈海潮音〉。かわいらしい姿が話題となっている懸仏をはじめ、深い味わいのある古色の加工が魅力の塑像の仏像全20点を展示、販売いたします。
中村さんご自身のwebサイトの中に「内的な叡智に委ねる制作活動こそ、主客が重なり合う、まさに“祈り”の実践でもある。」という言葉を見つけました。
他者と中村さんの重なり合う、今の時代に生かされた作品のこと、その“祈り”とは何であるのか?
中村さんご自身にお話しをお伺いしました。
展示と合わせてご高覧いただければ、幸いです。


彫刻家

中村 駿

https://www.nakamurashun.com/

1990年生まれ。2015年多摩美術大学卒業。
独学で塑像による仏像を制作し、オンラインショップの運営及び受注制作を行う。
2020年3月よりアトリエを横浜から奈良へ移し活動を続けている。

展示歴
2017/12 二人展『永点下』三鷹 カフェハイファミリア
2018/1 公募展『第6回アートイマジン芸術小品展』国立 アートイマジンギャラリー
2018/3 企画展『仏界冒険』代々木 ボイジャーズギャラリートーキョー
2018/8 企画展『Life 2018』銀座 GALLERY ART POINT 
2019/1 個展『いにしへの手紙』清澄白河 LYURO東京清澄
2019/7 企画展『GALLERY ART POIN AWARD 2019』銀座 GALLERY ART POINT 
2021/7 個展『住めば古都』表参道 イスム表参道店

『我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか』について思い馳せる事。

―中村さんの作品を拝見して、信仰の対象としての存在感や、身近に置いておきたい親しみやすさが同居しているように思い、これはまさに今の時代らしい祈りの形の一つではないだろうか?とお声がけさせていただきました。中村さんはこのような、新しい祈りのあり方についてどう思われますか?

「祈る」とは何かと考えた時、<一神教/多神教>または<主客分離/主客合一>思想など、宗教や国によって祈りの中身はそれぞれかと思いますが、その本質はフランスの画家ポール・ゴーギャンの代表作のタイトルのように『我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか』について思い馳せる事であると私は考えます。この問いに対して我々人類は、いつの時代も答えを求めながらも未だ明確な解答は得られず、生と死を繰り返しています。

その宙ぶらりんな中であっても、多くの芸術家たちは美と呼ばれるものを通じて、私たちが確かに今ここに存在しているのだ、というしるしを生み出し、過去から未来、未来から過去へ繋いできたのです。
私の作品もその長い連関の小さな一点の一つになれるよう願い、手を動かしております。
作品が現代に生きるお方々に求められることを大変有難いと思うと同時に、私の活動の目的はよりダイナミックな視点によるものでありたいと考えています。

―中村さんと仏像の接点についてお伺いします。中村さんはどこで仏像と出会い、どのような経緯で作家として活動されることになったのでしょうか?

記憶に残っている中で最初の仏像との出会いの場はスーパーマーケットでした。
母に連れられ買い物に訪れたスーパーで五大明王のガチャポンを発見し、お小遣いで一つ回して手に入れた「不動明王」が初めての仏像との出会いでした。
ただこれをきっかけに仏像を好きになるということはなく、その後、大学卒業まで仏像に関心を示すことはほぼありませんでした。
2016年に尿管結石を患い、その後、無意識の中でその痛みが再来するかもしれないという恐怖からパニック症のような症状が出始めました。
仕事中や、就寝前、友人と楽しく過ごしている時など状況に関係なく症状は現れ、精神的にも肉体的にも疲弊し、そんな最中に作っていた人の顔をした作品が、徐々に形に成すにつれて菩薩の姿になっていったのです。
この出来事をきっかけに仏像制作を始めることになり、また、心身の安らぎを求めてお寺に参拝するようにもなりました。

―中村さんの作品はとても愛らしく親しみやすいお姿をしていらっしゃいますが、仏像はどのようにイメージして形作られていくのでしょうか?

塑像による作品を作る際は、完成予想図やスケッチなどは一切行いません。
その場で手を動かしながら出来てくる形を観察して仕上げていきます。
素材と対話しながら完成へと進んでゆく感覚です。作り始める前にイメージを浮かべる場合もありますが、往々にして完成されるものは当初のイメージとはかけ離れた姿をしています。

―中村さんの作品の中でも懸仏が大変人気とのことですが、懸仏の制作を始めたきっかけはありますか?

東京国立博物館での展示で初めて「懸仏」という存在を知ったのがきっかけです。
それまで仏像とは繊細な技術によって織り成す重厚な彫像という印象がありましたので、大胆にディフォルメされた丸くて可愛らしい姿の懸仏には衝撃を受けました。
この可愛らしい仏様の姿を自分の作風に合わせてシリーズものとして展開をしました。

―ご自身の作品の中で、どうしても手放せない(販売したくない)ものはありますか?

パニック症に悩まされていた時期に誕生しました『水月観音菩薩遊戯坐像』は思い入れの深い作品です。
私が仏像制作を始めるきっかけとなった最初の仏像ですが、本当に大切にしてくださるお方が現れた際はお譲りしても良いと思っています。願わくば、多くの人びとの目に触れる場所に置かれてほしいですね。

―作品を制作する際、気にかけていらっしゃることはありますか?
また、決まったルーティンなどはありますか?


活動の中で、気にかけている事は体調管理です。
継続的に活動していく為にはまず体調を万全にするところから始まると考え、気をつけています。
毎朝決まった時間に起きて、決まった時間に食事を作り、決まった時間に寝ます。制作も生活のサイクルの中の一つとしてそこからはみ出ることはありません。

―中村さんはご実家のある横浜から、奈良へ移住されています。とても大きな決断だったのではないかと思いますが、なぜ奈良を選ばれ、移住することを決めたのでしょうか?

奈良に新たにアトリエを構えた理由は、奈良という地に仏像をはじめ、日本が誇る美の結晶が多く集結しているからです。
太古から今に残る歴史を肌で感じながら、多くを吸収したいと思い移住を決意しました。
また、都会の喧騒にうんざりしていた事もあり、自然に囲まれた静かな生活を望んでの事でもあります。

何かを作るということは、私たちを生かす為
命を捧げた「名も知らぬ者たち」を偲ぶこと

―仏像は祈りの対象として、とても重要な役割を担っているのではないかと思いますが、中村さんはどんなことを思い、仏像を作っていらっしゃるのでしょうか?また、中村さんご自身は日々の暮らしの中で、祈ること、偲ぶことはありますか?

人類誕生から今日まで多くの人の手によって多くの作品が生み出されてきました。
その中で、誰一人として他者の影響を一切受けずに作品を作り上げた者などいないでしょう。
私が作っていると感じているものの真は、これまでに生きた数多の他者によって「作らされているもの」なのです。
または、これまで生きたあらゆる芸術家たちが表現を試みる過程で選択しえなかったことを掬いあげる行為とも言えます。
つまり、仏像に限らず何かを作るということは、私たちを生かす為命を捧げた「名も知らぬ者たち」を偲ぶことでもあるのです。
そして私たちもまた作ることで「まだ名も知らぬ者たち」へ命を捧げているのです。

―作品を手にされた方に、どのように感じて欲しいと思っていらっしゃいますか?

作品は普段私たちが使う言語とは異なる言語で観者に静かに語りかけています。
出来るだけ多くの時間をかけて作品と向き合っていただき、その声に耳を傾けていただけると嬉しいですね。

―今後新しくチャレンジしてみたい作品やジャンルはありますか?

作品単体ではなく空間そのものを一つの作品とする「インスタレーション」という作品形態があります。本来私が、発表の場で展開したいことは空間演出でもありますのでインスタレーションにて発表できる機会を増やしていきたいです。

貴重なお話し、ありがとうございました。

中村さんご自身の“祈ること”、“偲ぶこと”への眼差し。まなかにとっても、新鮮な学びとなりました。
この機会に是非、彫刻家 中村駿の作品とつなぐ、祈りのある景色をご堪能ください。

「NEW SCENE vol.1 祈りをつなぐ本尊 中村駿〈海潮音〉」
2022年4月27日~5月29日
10:30~18:00
定休日 月曜日・火曜日
祈りの道具屋 まなか 横浜元町ショールームにて開催

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写真提供:中村駿